襖(ふすま)は、はめ外しの簡便性、防風・防寒・吸音・調湿など高い機能性、襖絵・唐紙(からかみ)などに見られる装飾性、および貼替え・補修の安易さなど耐用性において優れた特性を有する、世界に類のない日本独自の間仕切です。
単に紙で仕上げられているだけでなく、引き違い(上下の溝の中で動かす物)形式の間仕切は、西洋はおろか中国や韓国でも見られません。
しかも本来の襖(ふすま)というのは、使用する部材の木材は建築端材もしくは間伐材を用い、下貼紙には再生紙あるいは古紙を多用し、上貼紙には多くは楮や三椏といった栽培植物を原料とする紙(和紙)を用いるといった極めてエコロジカルなものです。
その上、メンテナンスを施すことにより、何代にもわたって継続使用できる扉です。
しかし、昭和の好況期の住宅需要の増大により、大量生産の必要性から襖(ふすま)のデザインは画一化され、使用部材も多く機械で製造するようになりました。そして、襖(ふすま)をつくる者は、伝統的な工法を駆使し襖(ふすま)を調整して納める加工業者と、襖(ふすま)の大量規格販売を行う製造業者に分化しました。
当組合では国家試験による一級技能士を輩出し、伝統を基にした襖の製造は当然のことながら、新しい商品に対しての知識も兼ね備えた組合員が多くいます。
実は表具師の仕事は表からは見えない所にあります。
隅皺がでないようにする「増し釘」、襖(ふすま)が反り返らないようにするための「捨て貼」、隠し釘に用いる「折れ合い」、上貼紙と下地の間に「浮け張を糊づけで施す」、浮け張が上貼紙に写る時には「喰い裂きで貼り込む」など、数十年ご使用頂けるよう表具師として製作しています。
襖(ふすま)を作る時の仕様は概ね襖椽・上貼紙(襖紙)・引手によって構成されます。
【上貼紙(襖紙・ふすまかみ)】
襖(ふすま)の上貼紙(表面に見えている襖紙)は雁皮・楮・三椏を漉いた鳥の子紙、本芭蕉紙・本葛布・絹絓などの天然素材の襖紙、また、これらの代用でパルプを原料とする上新鳥の子紙、再生紙を主な原料とする新鳥の子紙、化学繊維を使って織られた新紗織など、使用する部屋によって、デザインや素材、ご予算によって変更することができます。
【引手(ひきて)】
木材・陶磁器・合成樹脂・金属製がありますが、大部分は金属製で銅・真鍮・鉄が用いられます。
色は黒色系・茶色系・赤系・黄土系・金銀色などがあり、形は丸座・角座・木瓜座と襖全体に溶け込むようにするかアクセントとして選定する場合があります。
【襖椽(ふすまふち)】
材質により、または塗装によって数多くの種類があります。杉が多く使われていますが、用途によって檜・スプルース・桑・塩地(タモ)なども使われます。塗装では上級は黒蠟色塗または黒艶有塗・黒艶消塗・朱塗・根来塗・潤み塗など多種から選べます。
〜 本襖とチップ襖 〜
昨今は「本襖」と記載されていても「チップ襖」を使用した襖が多く存在します。
図面上ではわからない微妙なサイズを現場で採寸します。
現場サイズを元に襖骨地を作成します。現在、ふすま骨の種類は大きく分けて4種類。
ここでは本襖(*注1)とチップ襖(*注2)について説明をしていきます。
*本襖のみ
襖骨に手漉和紙などの繊維の強い和紙を張り、襖骨(組子骨)を締め付けてガタつきなどがないようにします。
*本襖のみ
襖骨(組子骨)が表面から透けないように、また「骨しばり」をより強固にするための重ね張りです。
*本襖のみ
紙をずらしながら重ねて蓑虫の巣のように張ってゆきます。紙は薄い手漉和紙、反古紙などを使用します。桂離宮の襖は十二遍蓑で蓑掛けされています。
*本襖のみ
蓑張りの紙を固定させるために上から和紙を張ります。
蓑押さえまで施した骨地を現場まで持って行き、傾きなどを削り合わせます。
薄手の手漉和紙を用い、紙の切り口を喰い裂きにし、周囲にだけ細く糊を付けて袋状に張り付けてゆきます。上張り紙が下地に直接付くのを防ぎ、浮けは何回も張り重ねるほどきれいに仕上がります。
上張り紙を補強するため、薄手の和紙を張ります。
表面に張る襖紙(鳥の子紙、織物など)に合わせ、糊の濃度を調節して張り込みます。
設置するお部屋に合わせた襖縁や引手を取り付けます。
仕上がった襖を現場へ持ち込み、襖縁を開口に合わせて切り、スムーズに開閉が出来るよう建付工事を行い完成です。